コンクリート建築は、なぜ問題なのか
船瀬俊介 (建築ジャーナル3月号より)
致命的欠陥のひとつ、耐久性が弱い
コンクリートは、20世紀の建築・都市文明のシンボル、最重要ファクターであると言えるだろう。しかし、あまりにタブーが多い。そしてあまりに無知のままこれまで来てしまった。
致命的欠陥のひとつは、耐久性の問題である。非常に耐久性が弱い。宮大工の西岡常一さんは、「コンクリート50年、木は1000年」と言っていた。万里の長城は、標高二千、三千メートルの山脈に連なって、いまだに現存している。それもレンガ造で、目地となる漆喰は、米でんぷんと、石灰を使った。今の建築家が見たら嘲ら笑うようなプリミティブな材料でつくられている。法隆寺や、日本の城郭も見事に現存している。
ところがコンクリートは劣化が始まると、もう補修はきかない。結局解体するしかない。そこが近代資本主義の要請──つまりスクラップアンドビルド、に合っていた。もちろん、ストック資産をつくっていくことが、資本主義の原点のはず。それが結局、資本の有効再生産にはならず、フロー経済になっている。
耐久性の弱さに、さらに拍車をかけて人為的に劣化させる操作のひとつが、シャブコン(水増しコンクリート)だ。やりだしたら止められないから、シャブ(覚醒剤)コンじゃないかと、私は冗談で言っているが、いわゆる「水増し」という品質劣化を、わざとやっている。
海砂の問題もある。鉄筋をさびさせる塩分を含んだ海砂を高度経済成長期に、大量に使った。 三陽新幹線で起きた巨大コンクリートの崩落事故は、一つ間違えば大惨事になっていた。
さらにコールドジョイントの問題は、日本のコンクリート施工は万全だという神話を崩壊させた。コンクリート型枠を”ゴミ捨て”替わりなど論外。
こんなことは他の産業では断じて許されない。雪印然り、電化製品の欠陥然り、欠陥品をつくったら社会の指弾の的にさらされるのが当然である。しかし建築のこの致命的構造欠陥については、いまだに社会的糾弾、批判がなされたとは言えない。
金融も、医療も、建築も権力と癒着した産業は、かならず根幹から腐敗、崩壊する。旧ソ連を見ればわかる。権力そのものが産業だった。腐敗の原理は、マックス・ウェーバーが指摘したように、自己保身に走った官僚主義にある。利益は追求しても、品質は追求しない。中央官庁の官僚主義ウィルスが今、大企業のなかの蔓延し、大企業病が蔓延している。
コンクリートの劣化要因として、もうひとつには断熱工法がある。石油ショック以来、欧米、とくにヨーロッパは建築物理学を徹底的に研究して、外断熱工法を進めた。内断熱ではヒートブリッジによって断熱にならない。熱膨張収縮と、それにともなう必然的な壁内結露によって、劣化が急速に進む。外断熱すら日本は黙殺した。これがコンクリート・クライシスのさらなる要因になった。
紫外線の問題もある。紫外線はあらゆるものを劣化させる。加えて、熱の膨張収縮。これは屋上緑化が必要な理由として私が一番よく言っていることだが、コンクリートの屋上は、夏場は低くても50℃になる。炎天下であれば80℃にまでなる。夜はそれが大体30℃まで下がると、その差は20℃~50℃。その熱膨張収縮たるや、昼間はグーっと躯体の壁体を押し、夜はギューっと縮む。ビルが大きくなればなるほど熱膨張の内圧は強くなるし、夜間は収縮圧が強くなる。これを毎日繰り返せば、当然、屋上の表面はクモの巣のような亀裂が走る。それは内部躯体にまで非常に大きなストレスを与える。
そして、酸性雨による劣化。窒素酸化物、硫黄酸化物という大気汚染物質を雨が運んでくる。旧西ドイツでpH値がレモン並みの酸性雨を記録したことは有名な話だ。その酸性雨は当然日本にも降っている。その三分の一は中国からの飛来による。
その酸性雨によって、さらに劣化が加速される。ご存じのように、コンクリートは水酸化カルシウムを多量に含んでいる。アルカリ性を保つことは、コンクリート寿命を保つ「イロハ」である。亀裂に酸性物質が入り、中性化現象が起これば、かぶり厚係数そのものが否定されてしまう。コンクリート寿命の短命化が加速されるのは当然だと言える。
2005年には、バブル期に建てられた最大の手抜き鉄筋コンクリート建造物は、これらの原因による真のかぶり厚係数で中性化が鉄筋に到達すると言われている
現実に、被害は起こっている
もうひとつ、コンクリートの持っている恐るべき側面は、健康への影響だろう。その最大の衝撃は、静岡大学が行なったマウスの実験である。それを見て私は愕然とした(しかし私が確認したところでは、日本経済新聞にしかこのデータは載っていなかった。他のマスメディアは黙殺した)。コンクリート製巣箱で、生まれたマウスを100匹育てたとして7匹しか生き残れなかった。金属製の巣箱で41匹、木の巣箱だと85匹だった。
名古屋大学の実験でもほとんど同じ結果が出ている。これは明らかにコンクリート・ストレスである。その原因のひとつは輻射熱の問題である。これは誰でも体感することで、はっきりしている。輻射熱の問題は建築家が一番、これまで気付いてこなかったんじゃないだろうか。暖房は、空気を暖めることばかりじゃない。暖房にはもうひとつ、輻射熱がある。空気を暖めなくても、真空でも何でも、離れたものに熱を与えるのが輻射作用だ。その発想が、現代の建築にはなさすぎる。
たとえば人間が身にまとうものだったら、暖かいとか、気持ちがいいといった理由で、やっぱり化繊より綿やウールに戻る傾向が出始めている。マイナスイオンや漢方における気の問題、これからそういう問題が出てくる。
以前に「エッ」と驚いたのは、インフルエンザのデータ。全国にある近隣する鉄筋コンクリート造校舎と木造校舎で、学級閉鎖率が前者では22.8%、後者では10.8%だった。
養護の先生たちによる観察記録を見ると、「疲れやすい」は3倍、「イライラする」は7倍、「頭痛がする」は16倍、「腹痛」は5倍にもなっている。これはマウスの実験と同じ結果が出ている。鉄筋コンクリート造校舎が、心身の健康を損なっていることは目に見えている。教壇に立つ先生たちも参っている。
これに島根大学の中尾哲也先生の、「鉄筋コンクリート造集合住宅の住人は9年早く死ぬ」というデータを重ね合わせれば、非常に説得力をもつ。
実験では、コンクリート製の巣箱で育ったねずみはきわめて攻撃的になった。母親が子ねずみを殺して食べてしまうことすらある。これは何を意味するのか。現代社会そのものではないだろうか。木の巣箱で育ったねずみはお互いに毛づくろいして、スキンシップをしあうのに。
結論は出ている。現実に、被害は起こっている。もう、対策の時なのに、「ヤバイから」とこの情報をひたすら隠し続ける社会はいったい何なのか。木造ではすでに素材としてもいろいろな造形が試みられている。予算の面からいってもベストである。木造が無理だったら木装すればいい。杉・桧の間伐材が余っている。
日本は林業国なのだから、あらゆる公共事業をやめてでも、子どもたちのために木造校舎をつくれと、声を大にして言いたい。
シシリー宣言の警告
結局、子どもたちはなぜキレるのか。当然、教育制度の問題や複合的な要因はある。しかし、忘れられているのは建築ストレスである。
建築ストレスには、フィジカル・ストレスとケミカル・ストレスの2つがある。ケミカル・ストレスはVOC(揮発性有機化合物)が原因である。
1995年11月に、シシリー宣言が採択された。それは、18人の国際的な環境ホルモン学者が、イタリア・シシリー島のエリセで開かれた国際会議に集まって宣言したものである。環境ホルモンが国際的に認知されたのは91年のウィングスプレッド宣言。そこで、環境ホルモンはpptの単位で生殖系を中心として、内分泌系の撹乱を行なうと発表された。それが『奪われし未来』(シーア・コルボーン、ダイアン・ダマノスキ、ジョン・ピーターソン・マイヤーズ゛著、1997年、翔泳社刊)へとつながっている。
ところが環境ホルモンがコインの表だとすると、裏は環境ドラッグだった。これを警告したのがシリーズ宣言と言えるだろう。「汚染化学物質は超微量であっても、脳の働きを阻害する。2番目には神経行動に異常をもたらす。3番目には社会的不適応行動を引き起こす。4番目には衝動的な自殺、暴力などの行為を引き起こす。5番目には奇妙な行動を引き起こすようになる。6番目には知能の低下を起こす。
人類はすでにIQが5ポインント低下した。さらにこの化学物質汚染は、内分泌系を撹乱するだけじゃなく、人類の最後の砦である、神経、行動、すなわち精神をも化学物質は侵す」とこの18名の学者は断言した。
きわめて複合的なストレス要因
フィジカル・ストレスはつまり、建築素材、コンクリート・ストレスによる。これはいわゆる熱ストレスで精神領域を侵されている。
さらに、木や藁などの天然素材に比べて、コンクリートはガンマ線の放射量が約1.7~1.8倍と、約2倍近くの放射線を出している。それはさらに生理的なストレスになる。ラドン等は、当然木からほとんど発生しないが、地面からとったコンクリート等はラドンが発生する。
電磁波の問題も決して無視できない。鉄筋コンクリートの家に住むということは、鉄の籠に住んでいることと同じ。そこに高圧線が通ると、鉄筋コンクリートが交流電磁波の変動に対して共鳴する。それが共鳴電磁波を出す。これは隠された電磁波ストレスになる。
これら環境ストレスを人間が人為的に作り出してしまった。コンクリートの健康への影響は、きわめて複合的なストレス要因になる。
放射能汚染された鉄筋
さらに、衝撃的な恐怖が台湾で指摘された。鉄筋コンクリート建築のアパートで、住民に原因不明の奇病が続発。それは重大な放射線障害だった。その原因には愕然とした。強力な放射線はコンクリート躯体の鉄筋から発生していたのだ。つまり、放射能汚染された鉄筋が民間アパートに密かに使われていたのだ。台湾当局の調べでは、そのような鉄筋コンクリート住宅、アパートは少なくとも数百棟に達するという。なぜ鉄筋が放射能汚染されたのか?
原因と考えられるのは解体された旧ソ連原潜や原発などから排出された鉄スクラップ。それが、さまざまなルートを経て”リサイクル”され、製鉄原料に混入され、誰も気付かないうちに恐るべき放射能汚染鉄筋が出回ったのだろう。では、この汚染鉄筋は日本では出回っていないのか?
そうではないと思う。ただ関係者の間で、秘匿されているだけではないか。ガイガー・カウンターで測定すると、驚愕的事実が明らかになるのではないか、と危惧している。
木造にすればいじめはなくなる
私の長女は、まさにコンクリート・ストレスの被害者になってしまった。これは死後、わかったことだが公団団地に住み、冷え冷えとしたコンクリート校舎に通っていた。いじめに遭って、緊張病といわれる、ストレスがたまった時に精神が不安定になる病気になった。これはいけないと思って、その子のために早くそこから脱出したかった。
しかし、『買ってはいけない』(週間金曜日刊)のとんちんかんな騒動に引き込まれて、駆けずり回ったおかげで、1年脱出が遅れた。奥武蔵に引っ越して来たけれども、もう精神的に極限だったのだろう。最後は入院した病院で、投薬ミスでやられてしまった。
だから悔しい。自分で指摘していて、自分で気が付いて脱出したけれども、間に合わなかった。
私は鉄筋のコンクリートの校舎を木装にすれば、それだけで校内暴力・いじめは半分に減ると言っている。全部木造にすれば、いじめは8、9割減るんじゃないだろうか。いじめも、校内暴力もひとつの自己表現である。強い者はいじめや暴力でストレスを解消する。弱い者は逃げ場がない。しわ寄せは弱いところに全部くる。病院や学校で、まだ鉄筋コンクリートのものがあること自体、かなり危機を感じざるを得ない。
地球環境に与える負荷
耐久性、健康への影響、この2つの致命的な欠陥の他に、3つ目として、地球環境に与える負荷の問題が挙げられる。
PC(ポルトランド・セメント)というのは、実はイギリスの産業革命の時に発明された製品だ。150年以上もの長きにわたって、なんの改良も行なわれず、延々と使われてきた。現在のPCは採掘で、たとえば1トンのPCをつくるときに、約1トンの二酸化炭素を出す。採掘、発掘するときのエネルギー・コストで0.5トン。焼成するときのコストでまた0.5トンと言われている。全地球上の二酸化炭素の発生量の約4.5%はセメントが負担していることになる。
そこでNCセメントという、名古屋大学工学部の教授が開発した改良セメントがある。粘土に苛性ソーダを反応させるなどの措置で、強度が約1.7倍になる。製造するエネルギーコストは約10分の1。二酸化炭素削減として、新しいNCセメントに総力を傾けるべきである。しかし闇に葬られている。代替品があるのにやらないのは、おかしい。
環境負荷のことをさらに付け足すならば、ウレタン吹き付けのコンクリートは、リサイクルできない。将来のシステム的な発想が全然できていない。
エネルギーは浪費する、健康には大変な負荷を与える、耐久性はきわめて低い、さらにリサイクルしようにも、ウレタンが吹き付けてあってできない。そして、コンクリートは美的ではない。五重苦である。建築家も、行政マンも、建て主もそのことに気が付いていないことがまた恐ろしい。マスコミでも議論がない。IT革命なんて嘘もいいところだ。情報テクノロジーが発達しても、情報そのものが流れていない。高速道路をつくって、リヤカーしか走っていないようなものだ。
本来、ITではなくてGT(Green Technology)革命でなければならない。学校を木装にすれば、たいへんな地場産業や林業の復興になる。雇用の確保になる。ついでに学校中の机と椅子は、無垢の木にしろと言いたい。コンクリートに欠けていたのは、まさしく湿度と温度調節なのだから。
21世紀建築へ
建築界に悲劇は、殺人住宅をつくる建築家を、スーパースターにしてしまったことだ。あらゆる若手の建築家が彼を神と崇めてしまった。70年代は、コンクリート打放しブームだった。それが全国の病院をつくり、学校をつくり、公共施設をつくり、保育園をつくり、老人ホームまでつくってしまった。まさに殺人ビルを競ってつくった。そこにいるのはみんな弱者。子どもたち、お年寄り・・・。
コンクリートは、モダニズム建築でもポストモダン建築でも根幹になっている。したがってそれが持っている問題点を問うことが、20世紀建築を見直して、21世紀に対する新しい提言になると、私は思う。(談